鯛と聞いてまず思い浮かぶのは赤い色をした真鯛ではないでしょうか。日本で鯛に類する魚は実に20種類以上もあり真鯛もそのうちの1種類にすぎません。
この記事ではそんな鯛の仲間のチヌ(クロダイ)をポッパーというルアーで狙う釣りを紹介します。
この釣りは、「ポッパー」と「チヌ」を合わせた「ポッチヌ」という名前で呼ばれ、
水面でのルアー釣り(トップウォーターゲーム)として面白い釣りが楽しめます。
ポッチヌで狙う2種類の鯛
ポッパーというルアーで狙える2種類の鯛とは、「クロダイ」と「キビレ」という種類になります。なぜこの2種類がこの釣りの対象になるのかというと、生息する場所がよく似ているからです。
その場所とは、海水と淡水が混じる汽水域と呼ばれる水域です。こうしたところには、クロダイとキビレといった2種類の鯛がいることも珍しくありません。
また汽水域に生息するとはいうものの完全な海水域でも普通に棲んでいますし、逆に河川の完全に淡水になる所まで登ってくる事もあるそうです。このような性質はシーバス(スズキ)などの魚も同様です。
そもそも何故クロダイの事を「チヌ」と呼ぶのかというと、これはクロダイの別名になります。漢字で書くと「茅渟(ちぬ)」であり、これは大阪湾の事です。大阪湾でよく獲れたことからクロダイの事をチヌとも呼ぶようになったのが由来です。
またキビレと呼ばれる鯛は、魚体の一部、産卵時期や性格などクロダイと異なる特徴がありますが、学術的な分類でキビレはクロダイとほぼ同じ種類に分類されています。
このキビレがクロダイと学術的に、ほぼ同じ種類であるということと、クロダイと同じく大阪湾を意味する「茅渟(ちぬ)」で多く獲れるという由来から、キビレもクロダイと同じく「チヌ」として正式な別名で呼ばれています。
キビレの由来は”黃(き)”の”鰭(ひれ)”からきています。クロダイとの見分け方も含めて下の「キビレ」の項目で詳しく紹介します。
クロダイ
クロダイは釣りの対象魚としては非常に人気のある魚で、”釣って良し食べて良し”という魚の一つです。雑食性で、小魚、虫、甲殻類(カニ、エビ)、貝類など何でも食べます。それゆえにルアーも追ってくるという性質を持っています。
魚体の特徴
魚体の特徴としては、「黒い鯛」と書くだけあって全般に濃く茶色がかっており、数本の黒い縦縞が入っています。とはいうものの個体ごとの茶色さ具合は「日焼け」によるものであり、あまり日焼けしていない個体は銀色の鱗(うろこ)のために白っぽく見えます。
黒い縦縞も、濃くはっきりと縞模様が見える個体もあれば、あまり縞模様が目立たない個体もあります。
とても長生きする魚で大きく成長すると50cmを超える個体もおり、50cmを超えたクロダイは「トシナシ(年無し)」と呼ばれます。
上の写真を見ていただけば分かるように、背びれをはじめ各ヒレはトゲのようになっており迂闊に素手で持とうとすると危険です。和名ではクロダイまたはチヌですが、英語学術名では「棘(トゲ)を持つ鯛」という意味を持っています。
ルアーの対象魚としての性質
ルアーを追ってくる魚ではありますが、クロダイはキビレと比べると比較的警戒心が強く、個体によっては全くルアーに反応しなかったり、ルアーを追ってきてもすぐに諦めてしまう傾向があります。
またルアーを追ってきても、すばやく口に入れることは余りなく、どちらかというと”鈍臭く”追ってくるような感じです。
餌を食べる時は魚体の割に小さな口に吸い込んでから咥えるので、ルアーを追ってくる時も「ジュボッ」という吸い込み音を立てながら何度もルアーを咥えることに失敗しつつ、ゆっくりとルアーを追いかけてきます。
キビレ
キビレとクロダイはほぼ同じ種類というだけあって「釣って良し食べて良し」の魚であることも同じです。食べると若干クロダイと味が違うらしいです。私は食べ比べましたが分かりませんでした(笑)
魚体の特徴
クロダイと判別が容易な最も特徴的なのは鰭(ひれ)が黄色い事です。
また、大きさはクロダイよりも一回り小型になり体色も白っぽいのですが、個体によってはクロダイ並みに茶色が強い個体もいます。鰭(ひれ)の黄色だけはどの個体も変わらず明確なのでクロダイとの判別は容易です。
各鰭(ひれ)が棘のように鋭利なことはクロダイと全く同じであり、素手で触れずに上の写真のようにフィッシュクリップという道具を使って魚を持つことが必要です。
ルアーの対象魚としての性質
キビレはクロダイよりも好奇心が旺盛で動きも機敏です。このことからルアーを水しぶきを上げながら果敢に追ってきます。ルアーに掛かってからの引きはクロダイに比べると重量感に欠けますが、小気味よい引きで楽しませてくれます。
使用するルアー
使用するルアーは「ポッパー」という種類のルアーです。ポッパーというルアーは水に浮かぶルアーであり、水面で魚が餌と誤解するような動きをします。
上の写真のようにルアーは、頭部の「魚の口」に該当する部分が水を受けるような形になっています。これを釣竿で”チョンチョン”と動きを付けることで、水しぶきと波紋が生まれます。
この水しぶきと波紋で、食べやすい餌のような演出をして魚を誘います。
魚から見れば水面に弱った魚か虫が泳いでいるように見えると思いますので、それを演出するようなイメージで竿とリールを操作してルアーに動きを付けると良いでしょう。
またクロダイ、キビレとも、チヌは目で見てルアーを追ってくると言われていることからルアーの色も釣りに影響するという考えもあります。定番の色は「オレンジ」と「ゴールド」です。
定番の色があるものの私は2つ上の写真(”キビレ”・”魚体の特徴”の写真)のとおり、キビレではあるものの青いルアーでも釣ったことがありますので、あくまで「定番」として用意しておく程度の認識で良いでしょう。
またチヌ(クロダイ)専用とされているルアーの特徴は、ルアーの尾部が細くなっており、チヌ(クロダイ)がその小さい口に吸い込みやすくなるよう狙った作りになっています。
ルアー以外の釣り道具等
ルアーは上記で紹介した通りですが、釣り竿やリールなど必要な道具についてはどうなのか。また、その他の持っていたほうが良い道具について紹介します。
釣り竿
竿は、専用品が売られています。
専用品はとても使いやすいと思いますが、全くの初心者や、初心者でなくても初めてこの釣りをやってみようという方の場合、専用の竿を用意するのは早いかと思います。
まずは安価な竿を購入して代用したり、これまで使っていた他の釣り用の竿を代用として使っても、この釣りに関しては十分に楽しむことができます。
代用できる竿には、下記のようなものがあります。
- シーバス(スズキ)用ロッド
竿全体が柔らかくしなるものが多い。重いルアーを投げることに対応したものは、軽いルアーを投げる事には向かない。ルアーを投げる事さえ出来れば代用可能だが、竿が柔らかすぎるとルアーに動きを付けるのがやや難しい。 - エギング用ロッド
エギというルアーを使ってイカを釣るための釣り竿。竿全体が固めに調整されており、軽いルアーを投げるのには向かないかもしれないが、ルアーに動きを付けるにはシーバスロッドよりも操作しやすい。 - ブラックバス用ロッド
ルアーの重さに対応したものがあれば、そのまま問題なく代用可能
チヌ(クロダイ)は釣れる場所の情報が少ないため、当面は代用品でやってみて確実に釣れる場所を開拓し、長く楽しめるようであれば専用品などの購入に踏み切ることをお勧めします。
リールと釣り糸
リールは中型のものであればどんなものでも大丈夫です。ただし、竿を使ってルアーに動きを付ける操作を繰り返しますので、なるべく軽いもののほうが適します。
釣り糸については、ルアーに動きを付けることから、ナイロン糸のような「伸び」があるものよりも、PEという素材の「伸びが殆ど無い糸」の方が適しています。
更にこの伸びが殆ど無い糸とルアーの間には、魚が掛かった瞬間の衝撃で糸が切れることを防止するために、ショックリーダーという1m程度の「伸び」がある糸を繋ぐ方式が一番適しています。
どうしても上記のショックリーダーを使用するやり方にまで手を出し難ければ、購入時にリールに巻いてある糸でもやってみることは出来ます。ただしこの場合はルアーに動きを付けるのは若干難しくなります。
フィッシュクリップ
フィッシュクリップとは、上の方の私がチヌ(クロダイ)を持っている写真で使っているような魚の口をマジックハンドのようなものを使って持つ道具です。
上の方で魚体の特徴を紹介したとおり、チヌ(クロダイ)のヒレは棘(トゲ)のようになっていて素手で魚体を持つのは危険です。
またチヌ(クロダイ)の口の中は、人間の歯と同じような歯並び(ほぼ人間の口の中のよう)になっており噛む力も強いので口に指を入れて魚体を持つことも出来ません。
チヌ(クロダイ)を釣った後、持ち帰って食べるのであれば締めて動かなくしてから針を外したりすれば良いのですが、締める前に写真を撮ったりリリースする(川へ返す)場合、できる限りフィッシュクリップを使用することをお勧めします。
釣り方
これまで釣り道具のことやチヌ(クロダイ)の特徴などで少し紹介していることもありますが、釣り方としてコツなども含めもう少し詳しく紹介します。
釣れる場所を探すには
このルアーでのチヌ(クロダイ)釣りに適する場所の条件は、
- 水深が浅い(概ね水深1m未満)
- 汽水域(海水と淡水が混ざった水域)や海に近い河口付近
- 海に面した河口からやや上流の潮の満ち干きの影響を受ける河川
であり、これには常時同じくらいの水深である水門付近や潮の満ち干きによって干潮時にのみ水深が浅くなる場所などがあります。また水深が浅くなっている間、流れが緩やかになっている必要があります。
例えば、いくら水深が浅くチヌ(クロダイ)が居ることが分かっている場所でも、水の流れが速かったり波があるような場所では、チヌ(クロダイ)はルアーには反応しません。
私はチヌ(クロダイ)が居る砂浜で試した事がありますが、ポッパーという種類のルアーでは全く反応せずポッパーではない他のルアーに変えると直ぐにチヌ(クロダイ)が釣れた経験があります。
またチヌ(クロダイ)の「紀州釣り」という餌釣りの有名な場所でポッパーというルアーを試しましたが、ここは水深が深いためかチヌ(クロダイ)はルアーでは釣れませんでした。
釣れる可能性が高くなる場所として探すのは、「チヌ(クロダイ)の群れ」を探すことです。チヌ(クロダイ)は群れで行動する習性があり、水面上から見えている場所があります。下の写真をご覧下さい。
この写真ような状態のチヌ(クロダイ)の群れが確認できればルアーで狙える可能性が非常に高くなります。ただ写真のような場所では足場に近すぎるため釣竿を使った釣りは無理がありますね。網で掬う距離です(笑)
上の写真は「チヌ(クロダイ)の群れ」を紹介するのに分かりやすい写真を掲載しましたが、実際に探してみると水の透明度や光の加減のためにもっと注意深く見ないと気付かない場合がほとんどです。
光の加減や水面の反射などで見えにくいような時は、偏光サングラスを通して見ることで非常によく見えるようになるので試してみて下さい。
偏光サングラスを装着していると水中の障害物や地形が見えたり、魚の取り込みなどでもよく見えて便利なので、釣りをするなら一つは持っていても損にはなりませんよ。
ルアーへの動きの付け方
他の魚を釣るときにポッパーというルアーに対して基本的に付ける動きは、「水しぶき」を立てる事なのですが、この釣りに関しては「水しぶきを立てる」ことは全く意識する必要はありません。
ではどのようにするのかというと、釣り竿を概ね45°上方または斜め上に構え、竿先だけを前後方向に細かく「チョンチョンチョンチョン」という感じで振りながら釣り糸のたるみを取る程度にリールを巻きます。
ルアーをその場に留めさせつつ動かすようなイメージです。弱った魚か虫を演出するイメージですが、コツは「チョンチョンチョン」を止めない事。単調なリズムを刻むようにし、余計な動きは必要ありません。
決して竿を大きく振ってはいけません。竿の振り幅は竿自体の”柔らかさ”と”しなり具合”によりますが、あくまでルアーが「チョンチョン」という動きをする程度であって、引いてくる動きではありません。
”チョンチョン”やっているとチヌ(クロダイ)がルアーを捕食しようと追ってきますが、”チョンチョン”という動きを変えることなくチヌ(クロダイ)がルアーに食いつくまで延々と続けます。
簡単ですよね(笑)
ルアーを追ってくるチヌ(クロダイ)は自分の目で見えているので、興奮を抑えながらこのルアーの小さな動きを続けるのが難しいと言えば難しいかもしれません(笑)
まとめ
ポッチヌというちょっと専門的になるかもしれない釣りを紹介しました。「専門的になるかも」という理由をまとめると下の通りです。
- この釣りをする場所を探すのがちょっと大変。”チヌ(クロダイ)の群れ”を探すのがコツ!
- 海にいるイメージの魚を川のような場所で釣る。
- 使用するルアーに付ける動きがやや独特で専用品もある。
- 専用品のルアーは、クロダイの小さな口に吸い込まれやすい形になっているので推奨
ただ他の釣りの代用品でやれる部分も多いので、他の釣りへ行く時には常にチヌ(クロダイ)用のルアーを釣り道具にしのばせておき、上の記事中で紹介した”チヌ(クロダイ)の群れ”が見える場所を発見した時に試してみる、というやり方で釣れる場所を開拓していくのが良いでしょう。
大変面白い釣りなので、是非ともこのチヌ(クロダイ)のルアー釣りが出来る場所の開拓を成功させてやってみて下さい!